いが、その手間賃はフンダンにもらってやるからな。何よりも先ず目に立つ石を探さなくちゃアならねえや」
 さすがに甚八は千代とちがって謎をとく筋、カンドコロというものの見当をつける手法になれていた。先ず有名な石、古くから人に知られた石、そういうものから次第に当ってみるべきだ。家の土台石の下というのも考えられるが、こいつァ家を造った大工を殺さなくッちゃア秘密がもれてしまう。甚八は大工であるから建築のことはよく分るのだ。しかし、大工殺しの秘密だってこの家の歴史の中に有りかねないから、根掘り葉掘り昔の秘密をさぐりだして必ず宝の在り場所を、否、宝そのものをわが手に入れてみせるぞと誓った。
 莫大きわまる手間賃が目先にチラついて甚八の心ははずんだが、なんの企みがあって自分がここへ呼ばれたかと考えると、薄気味わるさは増す一方だ。
「オヤ、命日までまだ七八日あるんですかい。今日明日のようなことを仰有った筈だが、どうしたわけで?」
 甚八がこう問うと、地伯は薄とぼけるのか何も答えず、年の若い須曾麻呂がきわめて冷淡に、
「東京へ買い物のツイデにお寄りしたのです。すこし間があると思いましたが、ほかにツイデがあ
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