と思わず大きい目玉をひらいて里人を見つめて、
「それで、金箱の在りかを、どなたか突きとめましたか」
「それが未だに分らねえだねえ。チョックラ指をさしたぐらいじゃ分らないねえ」
「そうでしょうなア」
 二十年前のこととは云え、あの碁に負けた手筋だけは、どうして忘れられようか。石の下! 実に無念の見落し。石の下!
 それだ! 甚八はひそかに思った。
「そうだとも。アア、大変なことだぜ。津右衛門が必死に指したのは、ほかでもない、あの碁盤だよ。碁燈に仕掛けがあるものか。あの最後の局面。今や黒のイノチとり、オレが必死に考えていた見落しの筋、石の下、があるだけじゃないか。碁を知らない者には分らないが、いまわの際にはそんなことは云ってられやしねえや。するてえと、この秘密を見破ることができるのは、天下にオレが一人だけ。オレがあの局面の説明をしない限りは誰にも分りやしないのだ」
 まさかに千代が相当の打ち手で、この秘密を見破っているとは知らないから、甚八の胸にはムクムクと宝探しの黒雲がむれたった。
「フン、おもしれえや」
 と甚八は腹に笑った。
「志呂足の一味がどういう企みでオレを呼びやがったかは知らな
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