、散歩のフリをして村人から事情をきいて廻ったのはさすがに賭け碁の名人。
「なるほどねえ。当日、津右衛門の霊のお告げがあるのかえ。それでオレが一枚加えられたとは知らなかった。こいつァ要心しなきゃアいけねえよ。なア。どんなヘボな碁打だって、自分でムダと思う手は打ちッこないね。オレをここへ呼んだ意味というものが必ず有るに相違ないよ。その筋を見のがしてると、とんでもない不意打をくらい、どんな目に会うか分りやしねえや。クワバラ。クワバラ」
碁の手筋にしたって、深く究めなくては本当の筋は分らない。和具志呂足のうつ手筋を見破るには、千頭家のあらゆることを知らなければならない。甚八はいささかもタメラわなかった。彼は足にまかせて疲れを知らずに村内を軒並にきいてまわった。
「へい。そうですかい。千頭家の祖先は豊臣の大将か切支丹の親玉かという大物ですかねえ。大八車に何台という金箱がねえ。話が大きいねえ。親から子へ門外不出の語り伝えをねえ。なるほど。え? 津右衛門さんが死ぬときに、もがいたって? ええ、そう。そう。な、なんですッて? それが金箱の在りかを指していたんですッて!」
甚八の頭は敏活だ。彼はハッ
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