東太の母だって、自分の妹ではないか。お舟と東太を一しょにさせれば、自然に千頭家はわが意のままだ。
このことは、東太と宇礼が結婚しても同じことだ。低能の東太に当主の実力は有りッこないから、家をきりまわす者は嫁であり嫁の一族だ。志呂足一味が邸内の探索などとそれらしいどんな素振りもしなかったのは、はじめからこの結婚を予定しており、それを見越して落着き払っていたようだ。
なぜかと云えば、邸内の探索らしい素振りをミジンもしたことがないというのがその証拠である。近在では噂に高い伝説の金箱であるから、この邸内に移り住めば、誰だって先ずそれを探してみたいのが人情だ。十年間も住んでいて、一度も金箱の在りかを探したことがないというのは、もっと確実な方法が予約されていたせいだろう。
こう考えると、さすがの天鬼もくさッてしまった。まてよ、なにかよい方法はないか。悪智恵では人に負けない天鬼、そこで人知れずジックリ考えはじめた。
★
こういうことを何も知らずにやってきた甚八、しかし、鋭い勘ですぐ邸内の異様な気配だけは感じとった。こいつァいけねえと思いついて、邸内の人間を相手にせずに
前へ
次へ
全67ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング