る。津右衛門がのたうちながら碁盤の方を指したということも、すでに人々に知れ渡っているのだ。
天鬼が時々見まわりにきてユックリ千頭家に滞在する習慣をつくッたのも、東太の身を案じてのことではなくて、志呂足の企みが実はそッちに根を発しているのではないかという疑いによるのであった。しかし今までの偵察では、志呂足一味が邸内や建物を探索したという事実だけは一度もなかった。その探索を人知れず行うことは不可能だ。そして、それらしい素振りだけは全くなかったのである。
しかし、東太と宇礼の婚礼を行うというダンドリの発表にあって、天鬼もおどろいた。そのダンドリなら、天鬼も考えていたのである。天鬼の娘のお舟も宇礼と同年、十八であった。イトコ同士であるが、そんなことは問題ではない。津右衛門の二十一周忌に志呂足の化けの皮をはぎ、千頭家から一味の者を叩きだして、千代の感謝をかい、何の面倒もなく、東太とお舟の縁組を結ばせようというコンタンだ。二十年前に父兆久と共にひどく真剣に邸内を探しまわったのは今から思えばムダな話。東太という低能児と自分の娘を結婚させれば、期せずして千頭家をきりまわす力は嫁方のもので、おまけに
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