いという年寄。甚八の言葉をよくギンミしながら、
「そうだねえ。石にも色々あるが、庭石に使いなさるのか」
「それがだ。この旦那がタダの旦那と旦那がちがう。まア、大金持の気違いだと思えばマチガイねえや。人間のやらねえことを、やってみたいてえ気違いだね。太閤が大阪城で使った何百倍の大石でもかまわねえから、大小に拘らず天下の名石を探してこいてえ御厳命だね」
「このあたりで名石というのは、あんまりきかないねえ」
「山か河原でもかまわねえが、石がタクサンあるようなところはないかね」
「そうだねえ。石がタクサンあるてえば、山の神だが、こいつァ庭石になるかねえ」
 甚八はグッと胸にくる驚きを抑えて、
「へえ。山の神てえのが、石の名所か」
「この近在のタナグ山に山の神があるのだが、お客人は田舎のことに不案内のようだが、この山の神てえものは御神体が山でもあるし、また石だね」
「その石は山のどこにあるのだ」
「慌てちゃアいけねえなア。オレが見てきたワケじゃアねえ。山の神だのサエノカミてえものは石を拝むものだてえ話さ。ホコラの代りに石がころがってるだけのものだね。名石だか、奇石だか知らないが、タダの石かも知れ
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