細さにたまりかねて、兄の天鬼に相談した。心のよからぬ兄ではあるが、得体の知れない行者にくらべれば、どれぐらいタヨリになるか分らない。利にさとく、人心の表裏に鋭く眼のはたらく兄であるから、心がねじけているだけ志呂足の敵手としては手ごわい手腕を現してくれるかも知れない。それを心だのみに天鬼に相談すると、天鬼は苦笑して、千頭家へ遊びに現れ、一ヶ月の余もユックリ滞在して志呂足の正体を観察していた。
「イワシの頭も信心からと云う通り、人間は気の持ちようで多少の病気はなおるようだな。しかし死病の人が生き返ったり、バカが利巧になることはあるまい。あの志呂足は食わせ者さ。東太を憐れむ余りとはいえ、あんな食わせ者に屋敷をかしたお前もバカだな。だが、今となっては仕方がない。二十一周忌に志呂足のツラの皮をひんむいてやるから、それまで待つがよい。東太はオレが秩父へつれて帰って、仕込み甲斐もなかろうが、多少は智恵のつくように手をほどこしてやろう」
 愛児を手ばなすのは心もとないが、志呂足一味の中におくよりは兄の手にまかせた方が無難かも知れないと、千代もその気になった。ところが、この話を伝えきいた志呂足が思いもよ
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