も心配することはない。ソチの家がタナグ山の神霊の化身たる私の神殿となることも太古からの定めであるから、ただ今からソチの家へ引き移る。東太のタタリは津右衛門の二十一周忌の日にバラリと解けて東太は立派な男になるぞよ」
こう云って、一族をひきつれさッさと千頭家へ引越してしまった。おぼれる者は藁のタトエで、千代にはそれを拒むことが、できなかった。それが今から十年ほど前のことである。
それ以来、千代は様子を見ていたが、東太の頭の発育に見るべきような変化は現れてくれないが、なにがさて、津右衛門の二十一周忌の当日に至ってバラリとタタリが解けるのだという。ちゃんとはじめにこう宣言がしてあるのだから、変化がなくとも文句も云えない。果して実力ある行者であろうか、山師ではあるまいかと、日夜に思い悩んでいるうちに、ウバ桜とはいえ美貌の玉乃は志呂足の情婦とも妾とも侍女ともつかぬ得体の知れないものとなり、地伯もいつか狂信して、志呂足の長女比良をめとり、千頭家の番頭よりも、山の神の忠実な玄関番になってしまった。下男も女中もみんな志呂足の信者となって、広い邸内に千代の味方は一人もいなくなったのである。
千代は心
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