至った。これだけで済めばさほどのこともなかったろうが、ここに千代の一大心痛事があったのである。ほかでもないが、一粒種の東太の智能が低いのである。父は素人日本一とうたわれた碁の打ち手、母とても結婚後習い覚えた碁が東太が三ツになる時には素人天狗を打ちまかすほどに上達した利巧者、二人の仲に低能が生れる筈はないから、よほどオクテの大器晩成塑。むしろ大物が育つのかも知れないなどと先を楽しみにしていたが、いつまでたっても智恵がつかない。日に日に心痛が深まり、いッそわが子を殺して一思いに死にたいと思うほどの悲痛な心境になっていた。折から玉乃が志呂足を信仰してメキメキと元気になり、義母の千代にも信仰をすすめるから、目の前にその実際を見ては心の動くのも当然だ。そこで東太をつれて志呂足を訪ねた。
志呂足は東太母子をむかえて、いと満足げにうちうなずき、
「ソチたちがここへ来ることは、とうに私は知っていたよ。東太にはタナグ山の神霊の怒りがタタリをしている。ソチの祖先が神様の山を金で買って所有したのがいけないのだよ。そのタタリが東太に現れ、またそのタタリを私がといてやることがチャンと定められているのだから、何
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