らぬ大立腹。千代を明々と燈明のゆらぎたつ神前によびつけ、須曾麻呂、比良、宇礼、地伯はじめ信徒の重立つものがこれを取りかこんで、
「東太はタナグ山神のタタリをうけている罪人。私が当家に神殿を移したのも、東太に代って日夜山神のアワレミを乞い、ツツガなくタタリの解ける日を待つためである。東太がこの地を動くならばタタリのとけることはなく、さらに山神の怒りにふれて神隠しにあい、地底へ封じこまれてしまうぞ。それでもよいか」
こう云って千代をおどかす。千代も仕方なく、この由を天鬼に告げると、
「アッハッハ。なんとか口実をつけて二十一周忌の解禁をごまかされては大変だ。なんでも志呂足の云う通りになっておれ。お前もまわりの者がみんな志呂足の信者では心細かろう。オレの知人に御家人クズレの漢方医がいて、夫婦ともに世なれた人だから、この人を差し向けて上げよう。礼を厚くもてなして、東太の教育をたのむがよい」
天鬼は秩父から約束通り、入間玄斎、同人妻お里の両名をさしむけた。天鬼の知人にしては上品で落着いた人物。御家人くずれで、漢学の素養もあるが、道楽に身をもちくずしたこともある酸いも甘いもかみわけた通人夫婦。五
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