た年ごろ、ゆくゆくは二人を一しょにさせて幼い東太の片腕にもと千代は考えていたのである。
ところが、好事魔多し。千頭家の広大な地所のうちに、タナグ山という海抜四五〇|米《メートル》ぐらいの相当な深山がある。山の入口に小さな鳥居があって、これを山の神というのであるが、さて鳥居をくぐって山の奥へどこまで行っても、どこにもホコラがあるわけではなく、どこが山の神の所在地だか誰にも分らない。山の神というものは、どこの山の神でもそういうもので、まア頂上、むしろ山全体が神体なのかも知れない。タナグ山には登山道すらもない。頂上へ行くには谷を渉《わた》り岩をよじ道なきところを這いまわらねば行かれないが、どこの山でも昔はたいがいそういうもの。登山という遊びが流行して以来名山高山には一ツのこらず道がついたが、全国の名もない小山は登山家の対象にならないから中腹ぐらいまでキコリの道がある程度で、頂上までの登山道など先ずめッたに在るものではない。
タナグ山は昔から何人かの信仰があったらしく、その麓には誰がたてたのか小ッポケながら鳥居があり、それが古くなると、いつのまにか誰かがたて代えて今につづいていた。すべて山
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