んで、翌日から雨風にもめげず、日のあるうちは開墾にかかる。なれない労働だが、働く分だけ自分のものになると思えば、夢中であった。と、半月ほどすぎたころ開墾の現場へ役人がきて、彼を捕えて牢へぶちこんでしまった。そこは安倍家の山林ではなく、他家のものであった。
 地伯は役人に哀訴して、兄の天鬼にきいてくれ。兄がこれこれ云ったのだから、兄の思いちがいなら、兄がなんとかしてくれるに相違ないから、とたのんだが、役人が天鬼の言葉だと伝えたものは、
「とんでもない。あのバチ当りめが。長の山は今ではウチの山ではないと云ってきかせても、そう云ってオレをだましてオレに何もくれないツモリだろうと一人ぎめに開墾をはじめた悪者でござる。ウンとこらしめて下され」
 という返答だった。幸い微罪によって一月ばかりで釈放されたが、わが家へ戻ると、一足も玄関へ入れず、お前のような悪者はただ今かぎり勘当だ、と突きだされてしまった。仕方なく姉の千代をたよって千頭家の居候になったのである。
 姉の千代はお人よしで気の小さい地伯をあわれんで、番頭代りに帳づけなどの仕事に当らせた。先妻の遺した玉乃が病身ではあるが、一ツ玉乃が年上の似
前へ 次へ
全67ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング