やしねえな」
と、ウヌボレはいくつになっても治らない。この甚八のところへ、ある日、千頭家から使いの二人の男が現れた。中年者は安倍|地伯《チハク》といって、津右衛門の寡婦千代の実弟。その連れの若い男は地伯の妻|比良《ヒラ》の弟で和具須曾麻呂《ワグスソマロ》という者であった。その口上をきくと、津右衛門の二十一周忌の法要を営むについて、仏の急死に縁の深い甚八にもぜひその席につらなっていただきたい。急死に縁が深いといえば語弊があるが、二十一周忌という昔話になれば、あれもこれもなつかしいばかり。仏もさだめし甚八を、また彼との最後の対局をなつかしんでいるであろう、というような話であった。こう云われてみれば甚八とても、なつかしさはこみあげてくる。
「もう二十一周忌かねえ。早いものだ。まったく、なつかしいねえ。そうですかい。それじゃア、何をおいても、お供させていただきましょう」
さっそく旅支度をととのえ、二人に案内されて、川越在の千頭家へおもむいた。きいてみれば、村の姿も、建物も昔に変るところがない。変ったのは、人の姿ばかりである。甚八がはじめてここを訪れた時は、彼の頭も人の頭もチョンマゲだった。
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