ある。
「石の下!」
津右衛門の言いたい言葉はこれだったのだ。人々の噂する金箱が、もしも隠されているとすれば、石の下なのだ。
その日から千代の思案と探索が新しく再びはじめられた。しかし謎も解けなければ、どの石の下とも判断の下し様がなかった。千代は遂にあきらめて、東太が成人したら、すべてを東太に明かして、東太の力で探させようと思ったのである。
それから二十年すぎた。そして新しく事件が起るのである。
★
あのときから二十年たって、甚八は立派な棟梁になっていた。デップリふとって、目から鼻へぬけるような鋭いところは表には現れていないが、碁は相変らずの好きな道で、石を握れば、今もって江戸の素人では並ぶ者なし、彼を打ちまかす新進の素人天狗は一人もでたことがない。折にふれて思いだすのは千頭津右衛門のこと。
「彼奴ばかりはメッポウ強かったなア。オレを打ち負かした素人碁打は天下に彼奴一人だが、よくもこッぴどく打ち負かしおったものだ。オレを負かしてトタンに血を吐いて死んだのも、鬼神の力を借りてオレに勝ったがために、約束によって鬼神にイノチを召されたのさ。さもなきゃオレに勝て
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