と大変だから、文字にすることができないのだ。即ち金箱の隠し場所に相違ない、と。
しかし、また人々は云う。文字に記して人目にふれて困るのは金箱の隠し場所とは限らない。もしも豊臣の子孫なら、その系図を文字に記して残すのも不安であろう。
そして一部の人々が信じていることは、千頭家は決して高貴というのではないが、実は切支丹《キリシタン》の残党である、と。千頭家の祖先が隠したのは、金箱ではなくて、切支丹の品物を地下に埋めたものだ、と云うのだ。どういう証拠でそんな噂が残っているのか分らないが、なるほど三代家光のころは切支丹断圧最後の時、その絶滅の時であるから、単なる風聞にしては時代がよく合っている。あるいは土民の先祖に切支丹の品々を目利きし得る人がいて、千頭家の持参した荷物の中に秘密の祭具を見かけたのかも知れなかった。
津右衛門は千代に語って、
「世間の人は色々のことを云うが、オレのうちはそのような大それたものではない。まア多少はある一人のちょッとした曰くづきの人物に関係があるが、この家の者がその血筋ではないのだ。わが家の血筋などはとるにも足らぬものさ。関係があるという血筋の人については、ち
前へ
次へ
全67ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング