のハズミで、実に事もなく、自分の家の呪われた血をバクロしたものだ。まるで自分には関係がないように。
未亡人の亡夫浅虫権六は病死となっているけれども、実は自殺したのであった。その自殺もタダの自殺ではなかった。彼は自分が癩病であることを知った。癩の徴候が現れたのを、ひそかに気附いたのである。彼はいろいろ癩について調べたあげく、自分がまさしくその病人の一人であることを確信せざるを得なかったのである。ついに彼は、発狂して、自殺した。しかも、その自殺の悲惨なること。彼は自ら刃物をふるって、自分の癩の徴候の部分の肉をえぐり、皮をはいだ。自らの額の皮までそぎ落したのである。そして、腹を一文字にさいて、自殺した。
咲子は一也の話をにわかに信用するわけにいかなかった。とは云え、良人にきいてみるのも怖しい。なぜなら、なんとなく思い当る節があるのだ。
この家へ家族のように繁々と出入するたった一人の人物がある。その親しさや、威張り返っている様子、人々がなんとなくその人物を煙がりながら鄭重《ていちょう》にする様子から、睨みの利く親類の親玉と思っていたら、正司が病気のとき、カバンをぶら下げ、医者になって、診
前へ
次へ
全50ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング