は察しがついておりました。わからないのは、顔の皮をはがれ、御主人の身代りに埋葬された者は何者かということ。そしてそのようなことが起ったのは何故かということ。それを突きとめるために昨日まで若干苦労いたしましたが、御安心なされませ。甚吉の行方不明に疑念を起している者は、この世に一人もおりませぬ。両親兄弟も親方も彼の行方不明を案じてはおりませぬ。又、私どもの捜査については、警察の人々は関知してはおりませぬ」
 新十郎は益々くつろいでみせた。彼はクスリと笑って、
「しかし、奥様の御手腕はお見事ですなア。私が何より敬服いたしましたのは、癩病や万引のことではありませぬ。これはまア、ちょッと智恵のある者は考えつく手です。最大の妙手は甚吉の行方不明を目立たぬように工夫された急所の一手。即ち、甚吉も野草同様、屍体の後始末を手伝った如くに見せかけ、その秘密を守るために当分両名に身を隠させたと見せかけて、葬儀も終った後になって、ヒョッコリ野草を帰宅させなさった一手です。同時に使用人全員一週間内にヒマをとらせなさッたのがこれに関聯する妙手でしょうが、さすれば他の使用人はヒマをとる寸前に野草の帰宅を見て、甚吉も
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