植木職の親方のところへ十三の時から住みこんだのですが、二十一二のころ、浅虫様へ親方からの紹介で住みかえたのです。五六年つとめましたかね。別に女房をもらったような話もききません。こっちからあの野郎のところへ便りをだしたら、先日ヒマをとって出たという話で、それから五年になりますが、どこにいるともいってきません。独り身で気軽のせいでしょうが、しかし、もう三十一二の筈、どこで何をしていやがるかサッパリ心当りがありません」
 どうにも仕様がない。それでも車夫とちがって、親方の住所が分るから、東京へ戻って親方の所も訊いてみた。親方も頭をかいて、
「ヘエ。どうもあの野郎は出来損いで。どこで何をしていやがるか、行方が分りません。職人の腕は良いのですが、腕にまかせて、よその職人が刈りこんだばかりの庭木を頼まれもせずに乗りこんでチョイと手を入れてくるような出すぎた生意気野郎で、それが面白いというお方もありましたが、そういう奴ですから、若造のくせに一パシ名人気どりで、鼻もちのならないところもありました。それがために、身を亡しているのかも知れませんや」
 どうにも分らない。新十郎は残った女の居所をたぐり、燈台
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