す」
「そのツケに書いてある半分ぐらいが万引の品なんだね」
「ハ?」
「奥様とキクさんが万引なさッた品物のことさ」
「ハア。万引でございますか? あの大家の奥様、お嬢様が万引なさる筈はございませんでしょうが」
「ホウ。東京では浅虫の奥様、お嬢様の万引といえば、かなり知れている事実なのだが」
「いえ。そんなこと、きいたことがありません。その筈がないではありませんか」
 今迄の四人の女は、癩のことは渋々肯定しても、万引の事は必ず否定するのであった。
 女の方の調べは終って、あとは二人の男であるが、どうにも行方の知り様がない。
 車夫の方は東京でモーローでもやっているのか、てんで故郷へ寄りつかないから、どこにいるか分らないが、ヒマをもらった当座はなんでも、ためた小金で居酒屋のような店をもったが、自分がのみつぶして失敗したという話である。退職金にもらった金が、女中でも千円以下ではないから男は相当もらった筈で、小さな店をひらくには充分だったに相違ない。しかし彼が店をひらいて失敗しても、その後主家をゆすっていないところを見ると、彼も女中なみの秘密を知るだけで、直接屍体の後始末などにはたずさわらない
前へ 次へ
全50ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング