の石には影響がなく、ほかに崩れそうな石は一ツもない。
 家人をはじめ関係者すべて一人一人しらべてみると、浅虫家の風変りな内容、癩病の筋のこと、先代の狂死のことも、すべて判明した。まことに気の毒な家族であるが、人殺しの容疑とあれば、仕方がない。
 新十郎は取調べが一段落すると、浮かない顔。刑事にわかれて、例の一行四人だけになると、馬をめぐらせて、区役所へと向う。彼がそこで調べたのは、五年前まで浅虫家にいた使用人たちの原籍であった。
「私はこれから五年前の召使いを一々訪ねて廻らなければなりませんが、あなた方はそんなことに興味はお持ちにならないでしょうね」
 虎之介はバカらしそうに、
「そんなことが、今回の殺人事件に何か関係がありますか」
「さア。それは分りません。しかし、今回の事件でしたら、二人がどんな方法で誰に殺されたか、大分当りはついています。だが、この事件に至っている大体の秘密が知りたいのです。なにしろ、秘密を握っていた二人の人は死んでしまったのですから。そして、今我々に分っていることは、殺人動機として充分うなずけるものですが、しかし、たぶんこうだろうと人々が推測しているだけのことに
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