や。口は案外堅い方で」
 と千円もらってフトコロに入れ、門を出るところを、警官に捕えられた。この警官は彼が警察へ三人づれで押しかけて来たのを見覚えていたから、ハテ、何か悪事を企んでいるのではないかと、訊問し、フトコロをしらべると手の切れるような札束で千円。サテハと署へひッたてた。
「ナニ、ユスリ、タカリなんぞするものですか。もらってきた金でさア。ウソだと思ったら、浅虫さんへきいて下さいな」
 浅虫家へ問い合せると、いかにも呉れてやった金。決してユスリ、タカリではありません、という返事。
 そこで、これは怪しい、何かあるな、と、却って警察の第六感をシゲキしてしまった。そういえば、かねて野草の長男が言った通り、あの崖から足をふみすべらしたにしては、たかが格闘ぐらいで、地震ではあるまいし、石が同時に三ツ四ツ落ちたというのは解せないことである。ひとつサグリを入れてみようということになった。

          ★

 相手が大家であるから、ウッカリ間違えると取返しがつかない。署の方から結城新十郎に応援をたのんだ。新十郎の一行は崖の上下をメンミツに調べたが、崖の石が四ツ崩れて落ちている。その他
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