は、何を証拠にお言いだい。無礼のことを申すと、その分には捨ておきませぬぞ」
証拠といわれるとグッと詰って、こればッかりは、どうにも言い返してやれないから、
「エエ、畜生め。何が証拠がいるものか。癩病やみの血筋の秘密を握られて二人の男を殺したと言いふらしてやるから覚えていやがれ」
「なるほど当家は癩病の筋には相違ないが、人殺しと言われてはカンベンはなりませぬ。出るところへ出て、もう一度、同じことを申してごらん。癩病は当家ののがれがたい運命、それは覚悟いたしているから怖れはせぬが、人殺しと言われてそのままに済まされぬ。訴えて出るから、さ、一しょにおいで」
「フン。バカめ。誰が警察なんぞへ出向いていられるか。癩病は当家の筋だとハッキリいったな。その言葉を忘れやしめえ。明日から日本中駈けまわって喚きちらし言いたててやるから覚えてやがれ」
「待ちなさい」
未亡人は静かに制して、
「お前の父にはその口封じに月々千円のお金をあげていたが、お前がその秘密をまもってくれるなら、お前にも父と同じことはしてあげよう。秘密はまもってくれるだろうね」
「ハナからそう出てくれるなら、何も余計な口は動かしません
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