土蔵は、この家の一番奥の主人夫妻の居間、今では未亡人一人の居間であるが、そこに接している上に、カギは未亡人の手中にあるから、未亡人の眼を盗んで土蔵に入ることは誰もできない。ただ娘のキク子だけは母の居間に出入自由で、同時に土蔵の中へも自由に出入できるらしい。二人は特に仲が良いのである。共通せる病人のせいかも知れない。
大金持の土蔵であるから、実に壮大雄渾な大土蔵で、花川戸の蔵吉という土蔵造りの名人が、九年かかって仕上げたという国宝的な土蔵であった。その大土蔵のどこに、どんな風に戦利品が陳列してあるのか誰も見ることが出来ないが、気品あくまで高き未亡人と、奔放にして美しき娘とが、時々そこへ忍び佇んで戦利品に魅入られている姿を想像すると、咲子は怖しくもあるが、凄いような美しさを感じないこともなかった。
しかし変った家族である。何から何まで変っている。食事にしても、未亡人とキク子は未亡人の居間で差し向いで食べる。フキヤという小女がお二人の係りの女中である。
正司と咲子は、二人の居間で食事する。これにはタケヤという小女が係りの女中だ。
正司の弟の一也という大学生は自分の居間で一人で食べる。
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