気で、無口で、てんで男など眼中にないらしい様子である。立居フルマイが荒々しく、投げやりで、奔放だ。そういう変り者であるから、万引の手口が豪放をきわめていて、人力とは思えないほどゴッソリ持ってくる。コートの裏に何十本というカギのついたヒモがぶら下っていて、ここへ反物を何十反もぶら下げてくるような、妙に芸のこまかい技巧派のところもあるのである。母の血をうけて利巧なことは確かであるから、粗雑、奔放のようでも、無口で陰気で考えこんでいるような放心状態のとき、実は万引の手口について新発明をこらしているのかも知れない。母にくらべて、大胆不敵、武者振り堂々たる万引常習者であった。
彼女らにとっては、買うことと万引とは、結局同じことにすぎないのに、そこは病人のことで、万引は又特別、戦利品というような快感があるらしい。貧故の万引とちがって、金持の万引は完全な病癖なのだから、その快味は又、特別に相違ない。
だから、買ってきた品物は、ちゃんと居間のタンスにしまうけれども、戦利品は土蔵の中へ秘かに隠して貯蔵して、その戦利品の山を日夜のぞきに行って満足しているのだ。だから彼女らは、土蔵の中へは誰も入れない。
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