れなら話が合っている。その医者と組打ちして、崖から落ちて死んだのだ。医者も死んだのだから、あきらめなさい」
「そうですか」
 と、女房は屍体をひきとって退去した。
 ところが、その翌日、この女房をかこんで一人の婆さんと年のころ二十二三のイナセな兄チャンが警察へのりこんできた。この婆さんが野草の先妻でイナセな兄チャンは野草の長男であった。野草が浅虫家の下男の時は、邸内の小住宅に婆さんも長男も一しょに住んでいた。先代が急死すると、野草は浅虫家からヒマをもらい、妻子を離別して行方をくらました。数年たって、野草の家をつきとめてみると、大そうな金持になっている。婆さんが泣きつくと、毎月三十円ずつくれたが、後に手を合して五十円にしても貰った。どうして金持になったのか婆さんは知らなかったが、野草が死んだので今のカミサンに会って事情をきいてみると、野草は働いて金を稼いでいたのではない。何もしないで、毎月千円ずつ金がはいってくるのである。家の中をひッかきまわしても銀行預金というものが在るらしいようには見えないから、今にしてハッキリしたが、その毎月の千円は浅虫家から出ていたものに相違ない。今のカミサンは彼
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