が死ぬまで浅虫家のことは知らなかったが、先妻の婆さんには思い当るフシがある。浅虫家の先代は何かで急死したのである。野草は案外口が堅くて、癩病のこと自殺のことを先妻にもらしていなかったが、ただならぬ屋敷の様子で、何か大きな曰くがあることは察せられたのである。
 毎月千円という大金を五年間もゆすッていたとは驚くべきこと、いかに先方が大金持にしても、よほどの秘密に相違ない。それほどの大秘密を握っている人物を生かしておきたくはないから、これは殺されたと見るのが正しいようだ。この秘密は先代の急死に関係していることだから、その秘密を出入りの医者が握っているのは当然のこと。そこで秘密を握っている二人が、自分一人でうまい汁を吸いたいのは人情であるから、二人で殺し合いをしたようにも考えられるが、浅虫家の立場から考えてみると、二人一しょに殺してしまえば永久に秘密の洩れることがなくなるのだから、二人を殺してしまいたいのは更に必死な願望であるに相違ない。
 野草の長男はちょッと才走った兄チャンで、人間と一しょに三ツ四ツ崖の石が崩れて落ちたのはおかしい。シンコ細工の崖じゃアあるまいし、人間が多少喧嘩なぐりッこを
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