で、未亡人は咲子をジッと見つめて、
「あなたは本当にお気の毒です。あの一也が、余計なことを言ってくれなければ、あなたも幸せに過せたものを。今となっては仕方がありません。今まで隠していたことは、お詫びいたさねばなりません。あらためて私からお願い致しますが、今まで通りここをわが家として、正司の面倒を見ていただき、生れる子供を育てていただきたいのです。あなたは利発で、落ちついた方。正司にはモッタイない嫁御です。私は拾い物をしたように、安心していたのです。あなたならば私が当家で果した役割を、代って果して下さることができるでしょう。呉れ呉れもおたのみいたしますよ」
 と、手をとらんばかりに頼まれた。未亡人も、今は秘密なく、ホッと安心、すっかり打ちとけたらしく、
「今度、キク子が花田さんの御子息と結婚することになりましたよ。生涯当家のヤッカイ者、売れ残りかと思っていましたが、これで私も肩の荷が一ツおりました。一安心です。花聟は二十五、キク子と同い年ですが、父まさりの腕達者で、若年ながらとても評判のよい若先生なのですよ」
 未亡人はよほど嬉しいらしく、その話になると飛び立つように浮き浮きした話しぶり
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