と、お帰りのミヤゲが多くてねえ。しかし、未亡人は、常にあなたの服飾について意を用いておられる。意のあるところは充分に感謝しなければなりませんぞ」
 どっちが口サガないか分りやしない。
「昼のうちから御酒を召上って、急病人ができたときにどうなさいますの」
「ナニ、医者は東京にワシ一人ではあるまいて。第一ワシは漢方に洋学のサジ加減をちょッと加味したような雑種なのさ。ワシの倅《せがれ》が三年前に医学校を卒業して、今ではワシよりもサジ加減がよい。特に婦人には親切をつくすそうだから、あなたも診てもらいなさい。そういえば、あなたもニンシンの由承ったが、当家の初孫、まことにお目出たい」
 咲子はからかわれていると思った。あまりにも皮肉、残酷なからかいというものだ。
 咲子は涙ぐんだ。
「先生は呪われて生れる子供をフビンと思わないのですか」
 こう怨じて詰問すると、まさかそれを知るまいと思っていたらしく、花田はさすがにビックリ仰天、酔眼をパチクリさせて、しばし酒臭い大息をフウフウ吐いている。
「フン。正司君もちかごろは見ちがえるような若社長ぶり、見上げたものだと思っていたが、持って生れたバカの性根は仕
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