はありませんか。こんな立派な兄様がいらっしゃるから、貴方の卑怯さが尚更腹立たしいのです」
「イヤ、この兄は、あまり神経過敏すぎる。別に癩の徴候が現れたわけではないのに、居ても立ってもいられぬらしく、外国へ逃げてしまった。外国に癩を治す名医がいるならとにかく、そうまで慌てるのも、甚しすぎるというものだ。おまけに、外国へ逃げて、結婚したというではないか。外国人ならだましてもかまわないというのかね。人格者というわけにもいかないではないか」
「本当に結婚なさったの?」
「手紙でそう知らせてきたということだ。もう日本には帰らないと云っているそうだ。外国から帰ってきた人の話でも、アイマイ女と結婚して、酒を浴びて、身をもち崩しているということだ」
「それにしても、癩病だの、自殺だのということが、よく秘密に保てたものですね」
「さア、それだ。それがこの家のガンというものだ。癩病と知って、召使いの者はヒマをとる。一人去り二人去り、一週間目には、一人も召使いがいなくなったよ。中には、癩病と知った当日逃げだした弱虫の慌て者もいたほどだよ」
大家にも拘らず、大勢の召使いが一人残らずそう古くない理由がうなずけ
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