へ出頭して係りの探偵一同に参集をもとめた新十郎は、犯人のカラクリを静かに説きあかしてきかせた。
「今まで接した犯罪のうちで、この事件ほど巧妙に組み立てられたものはありませんでした。カラクリは幾重にもはりめぐらされて重点を巧みにそらし、殆どつけいる隙がない如くに完璧な構成を示しております。メンミツに計画され、一ツ一ツが予定の如く確実に実行されたもので、一石が一石ごとに意味を果し、殆どムダ手というものを見出すことができません。しかし、かほど完璧に遂行された犯罪も、なお完璧の故に弱点はあるのです。つまり最も重点から外れて見えるところに、隠れた重点があるということであります」
新十郎は例になく奇妙な前説をつけ加えた。彼がこれほど力むのは、よほど犯人の手際に感服したからだろう。
「この事件の結び目をとく手がかりは、二ヶ所にあるのですが、まず第一には、女から車夫になり美男子に変じ、甚しい苦労を重ねてまでも中橋家へ行李を送らねばならなかったのはなぜであるか、ということです。曰く、殺された女がヒサであるということを分らせるため。曰く、殺された日時や場所が直ちに分ってもらいたいため。以上の理由にもとづ
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