くのです。犯人はヒサの両眼に一寸釘をうち、いかにも怨みの兇行らしく見せかけていますが、真に怨む者の兇行ならば、殺すことによって目的を達するわけで、ヒサがいつどこで殺されたかということは分ってもらいたくないことに相違なく、又、兇行の発覚が一日でもおそく、できることなら発覚されずにすましたいに相違ありません。中橋家へ行李を届けるために払った大苦心を、行李を隠すために用いるのが自然にきまっています。したがってヒサの眼に釘をうって怨みの兇行の如くに見せかけているのは、実は最もそうでないということ、そして、ヒサが殺されたことが一日も早く知られることが犯人の利益になること、これが即ち完璧の故に生じた弱点の一ツであります」
新十郎は一息ついて、又、語りつづけた。
「以上の結び目がとければ、おのずから次のことが解けてきます。単に中橋家へ届けるだけなら、真砂町の別荘だけでよかった筈です。なぜ、さらに本邸へ運ばせようとしたか? これ即ち、男に変じ、女に変ずる手段によって一人物の男女に化けての犯行であると見せるため、これによって同一人物が男女二様に変装する故に役者に関係ありという結論が生じてきます。それ故
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