れで天下晴れて荒巻と添いとげたい夢之助の方寸だろうが、中橋がヒサの母に夢之助の妾宅へ参るとハッキリ言明しているのは天の声、実に不正はおのずから破れるものだ。いかに万全を施しても、一人の智恵は所詮知れたものだよ」

          ★

 虎之介はわが家へ戻らずに花廼屋の玄関先に突ッ立ち、因果先生を玄関口へよびだして、なんにも云えずにニヤリニヤリ笑っている。その薄気味の悪いこと。さすがの花廼屋もあてられて、苦い顔。
「シナ産の黒豚が笑っていると思ったら、二軒隣りの豪傑じゃないか。男女の道で真犯人が解けたかい」
「ハッハッハ。犯人は女だ」
「ブッ。男女の道に見切りをつけたところはお見事」
「貴公の心眼はどうだ。誰知るまいと思いのほか、天の声。実に不正はおのずから破れるてえことを知るまいな」
「知らないねえ。失礼だが犯人は男でげす。クロロホルムと変装。急所はここにありますねえ。薬物に通じて、芝居道に通じたる者。しかも変態にして吸血鬼。ねえ。犯人はただ一人。小山田新作あるのみ」
「ゲゲッ」
 と虎之介は腹をシッカとかかえて、断末魔の如くに笑いだした。その日の午後、例の一行をひきつれ、所轄署
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