やってのけたろうさね。夢之助は午後の三時すぎに荒巻をともなってわが家へ帰り、時ならぬ昼酒を飲んだのは早寝と見せてぬけだすため。ねむると見せて荒巻にはクロロホルムをかがせたのち、裏木戸から忍びでたのさ。広小路で捨吉に命じて中橋別邸へ行李をとりに走らせ、予定の仕事を無事完了したのが九時ちょッとすぎたころ。再びわが家へ忍びもどって元のネマキ姿となり、女中に水を命じたのは芸の細いところで、ズッとねていたと見せるためだ。ここに哀れをとどめたのは、中橋英太郎さね。ヒサの妾宅を車のくるのを待ちきれずとびだしたのが十一時ちかいころ、根岸の夢之助の妾宅へたどりついたのが、かれこれ十二時ちかい刻限であったろう。中橋の不意の訪れに仰天したのは夢之助だ。荒巻にはクロロホルムをかがせてあるから、かねて用意の如くに裏から逃がす術がねえや。これは仰天するだろうさね。女中がグッスリ寝入りばなで目を覚さないのを幸いに、毒くらわば皿までと表へまわってクロロホルムでねむらせて絞殺したが、この死体は縁の下かなんぞへ一時隠しておいて、その翌る夜、ゆっくり処理したものだろう。憎いヒサを片づけ、あつらえむきに中橋の始末もつけて、こ
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