ったころに上野広小路でモーロー車夫の捨吉によびかけました。捨吉は彼の奇妙な命令を体して真砂町の中橋別邸へと急ぎ去る。これで犯人のその日の行動は終りをつげたのです」
虎之介はクビをふって、
「音次をよびとめた女と、捨音をよんだ男とは、別の人間さね。ただし一心同体ではあるが、な。失礼ながら、あなたはまだお若い。男女の道に心得がなくては正しい推理をあやまりますぞ。なア、お梨江嬢。結城さんを名探偵に仕込むためにヨメを探してあげたいと思うが、どうだろう」
そこへ古田老巡査が慌ただしく駈けこんできた。
「只今警視庁から急報がありましてな。中橋英太郎が腐爛した死体となって隅田川の言問《こととい》のあたりへあがりましたぞ。水死ではなくて、クビをしめられて死んでおったそうです」
新十郎はガク然色を失って立ち上った。
「シマッタ! 推理が狂ったか! イヤ。待て、しばし」
彼は直ちに冷静をとりもどした。すばやく服装をととのえ、一同は馬を急がせて現場へ急行する。新十郎は火を吐くような目で、中橋の死体を睨みつづけていた。
彼は怒り声で叫んだ。
「この犯人はヒサを殺した犯人と同一人です。ごらんなさい。二
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