人は同じように死んでいます。そう苦しくもなかったように。殆ど抵抗した様子もなく。つまり、二人ともクロロホルムをかがされてから絞殺されているのです」
彼はすぐふりむいた。
「さて一夜、ゆっくり考えてみましょう。明日の午後、犯人を捉まえようではありませんか」
一同をうながして帰途についた。神楽坂へ戻りついて、門前で虎之介と別れるとき、ニッコリ笑って、ささやいた。
「音次がのせた女と、捨吉に用を云いつけた男は、たった一ツですが重要な点で類似しているのです。二人とも、カサばってはいるが、そう重くはないような包みを持っていたのです。では、おやすみ」
★
氷川の勝邸で海舟の前にかしこまっているのは云うまでもなく虎之介。太陽もあがらぬころから、勝邸の門があくのを待っていたという慌ただしい駈け込み訴えである。
日毎々々の報告を連日怠りなく講じておいたから、ちょうど読みきり講釈のデンで、ただ今最終回をつとめ終ったところ。まだ日はそう高くはない。奴め握り飯を腰にぶらさげてきて海舟の朝食に御相伴したらしく、彼のお膳の横には竹の皮がちらかっている。
海舟は食後の茶を味わい、再
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