が一ツ減ってやしないか」
「そうですねえ。そう云えば、なるほど、以前は七ツあったかね。するてえと、一ツ減ったかも知れないね。なに、空ッポで、中には何もはいってやしませんので」
 新十郎は下を見廻して、
「フム。一寸釘が至るところに散らばっているなア」
 独り言をもらしたが、彼の目は一点ももらさぬようなきびしさで、小屋の中を隅から隅まで見て廻った。
 彼は一点を指した。
「ここに何かをひきずッた跡がある。出口へ向って三間ほども。何がひきずられたか」
 彼は人々の顔を見廻して笑った。そして叫んだ。
「死体をつめた行李!」

          ★

 その晩、花廼屋《はなのや》と虎之介が新十郎の書斎へ遊びに行くと、彼は机上の白紙に図面をひいて、先客のお梨江と二人考えこんでいた。見ると、上野だの本郷だの浅草だのと書きこんだ図面であった。
 新十郎は図面を四人の真ン中へひろげて、説明をはじめた。
「ヒサが自宅を出たのが午前十時半。飛龍座へ到着したのは十一時ごろでしょう。飛龍座へ到着|匆々《そうそう》小山田に抱きすくめられて夢之助の部屋へ逃げこみ、ちょッと伏せったのですが、ヤスが主人の姿が見えな
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