ヤッコラ、ドッコイ、スットコ、ドッコイと縄をといてフタをあけると、捨吉の奴、尻餅をついて腰をぬかしてしまった。中から現れたのは、見るも無残な女の他殺死体である。
捨吉はピックリ仰天、一夜マンジリともせず死体のかたわらで考えあかしたが、よい思案がうかばない。夜の明けきらぬうちにどこかへ捨ててしまおうと車にひいて街へでたが、悪事には馴れていても度を失うと日ごろのような気転がない。捨て場に窮しているうちに、お巡りさんにつかまってしまった。
★
所轄の警察ではアッサリ捨吉の犯行ときめて、殺された女の身元さがしだけにかかっていた。美女ひとりとみて、手ごめにして殺したもの。モーロー車夫のよくやることだ。殺しッ放しに捨ててこず、行李詰めにしたのは、自宅へひきこんで手ごめにしたためだ。こう簡単にきめこんだ。
たった一人、若い巡査が不審をいだいて、念のため、捨吉の申し立てる中橋別荘へ辿って行って、別荘番にきいてみると、意外、彼の申し立てが真実とわかった。しかし、別荘番の言うことも変っている。
「御訊ねの通り、まことに人を小馬鹿にした車夫のふるまいですが、いったい、奴めが何を
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