には、荒巻が外套をボロボロに焼かれて後、三時ごろ夢之助に会った。二人はすぐ夢之助の根岸の家へ行き、酒をのんで、五時ごろにはもう枕を並べて寝たのである。以上が荒巻の陳述であった。
彼が十一時から二時ちかくまで露月にいたことは、その人々によって証明された。たしかに荒巻は一人であった。その日、ヒサが露月に姿を見せなかったことは事実であった。
夢之助の陳述はこうである。
彼女が楽屋で荷造りしていると、部屋の外に騒ぐ音がきこえて、二人の女が這入ってきた。一人はよく見かける顔であるが、一人ははじめての顔でヒサだとは知らない。ヤスがちょッとかくまって、というので、どうぞと中へみちびくと、ヒサは気分が悪いらしく蒼ざめて苦しそうだから、水をのませて、横にさせ、有り合せのものをかけてやったりした。
その後、夢之助は養母の荷造りを手伝ってやったり、他の人々の世話をやいたり、部屋に病人を残したまま方々かけまわっていた。いつのまに病人が居なくなったか気がつかなかったし、気にかけもしなかった。すッかり忘れていたのである。一時ごろ、伴《つ》れの女が訊きにきたが、彼女は知らないと答えた。
まもなく横浜の興行
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