も見当りません。方々探して、三時半ごろまでうろついていましたが、先にお帰りになったのかも知れないと、いったん戻って参りました」
「奥さんの姿が見えないと分ったのは何時ごろだね」
「何時ごろか正しいことは分りませんが、一時ぐらいかも知れません」
どうやら殺人の現場に当りがついてきた。大行李に詰めてあったも道理、女剣劇の荷造りの中に、荷物の一ツのように見せかけて荷造りされたように思われるのである。
そこへ横浜から夢之助はじめ、小山田新作、荒巻敏司らが連行されてきた。ここに至って、事件は直ちに解決するものと、新十郎はじめ、甚だ簡単に考えたのだが、あにはからんや、これより益々迷宮に入るのである。
★
先ず意外なのは荒巻の証言であった。彼はこの日、十一時ごろ、いつもの通り露月でヒサと会う約束であったから、十一時前から露月で待っていた。十二時、一時をすぎてもヒサが姿を見せない。二時ちかくまで待っても見えないので、諦めて飛龍座へ戻ってくると、そこに彼を待っていたのはヒサではなくて、看護婦の常見キミエである。
キミエは荒巻が学校を中退して故郷へひッこむということを知り、
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