んはいつも飛龍座にいますから、奥さんと打合せのない日は、私が行って知らせますし、用がすんで奥さんが帰る時は荒巻さんが戻ってきて知らせてくれます」
「十一月三十日のことをできるだけ正確に述べてごらん」
「あの日だけは今までと違います。いつもですと吾妻橋から仲見世へ曲り、その中程から又曲って真ッ直ぐ露月へ這入るはずの奥さんが、この日に限って、新開地へ行こうと仰有るのです。なんでも、夢之助さんに厳談があるとかで、荒巻さんとのアイビキが旦那に知れたのは夢之助さんのせいだったと、そんなことを申しておられました。で、飛寵座へ御案内しますと、皆さん荷造りで忙しい中から、小山田さんがヌッと現れて、いきなり奥さんを抱きすくめて乱暴しようとしました。奥さんが悲鳴をあげて大騒ぎになり、私は奥さんをかばって夢之助さんの部屋へおつれしました。奥さんは驚いて気分を悪くなさったらしく、蒼ざめて苦痛の様子でしたが、夢之助さんが親切で、お水をのませるやら、介抱して下さいまして、しばらくそッとしてあげるがよかろうと仰有るので、私は外へでて、方々小屋をのぞいて遊んでいました。一時間半ぐらいして戻ってみると奥さんの姿がどこに
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