、この小屋は目下休業している。
これを報告した探偵は言葉をつけ加えて、
「飛龍座で行方不明になった女中づれの美しい女が、着衣や人相などヒサによく似ておるようであります。劇場の番人を連れて来ておりますが」
そこで番人に死体を見せ、ヤスを見せると、二人づれに相違ないことを確認した。ヤスが今まで申し立てていたことは、全部真ッ赤な偽りであったのである。新十郎はじめ探偵たちは俄然色めきたった。ヤスをよんで詰問すると、ヤスは涙の一升五合も流したアゲクに洟《はな》の三合もたらしたのを始末して、
「どうかカンベンして下さいまし。奥さんからいつも駄賃をいただいておりますし、こんなことが起りましたので、怖しくて、正直に申し立てることができませんでした。三筋町のお師匠さんへ行ったというのは真ッ赤な偽りで、いつも真ッ直ぐ浅草へ参っておりました」
「いつも二人で新開地へ行ったのかね」
「いいえ。吾妻橋を渡って仲見世の中程から馬道の方へまがってちょッと小路をはいりますと、露月というちょッと奥まった待合風の宿がございます。奥さんは真ッ直ぐここへお這入りになる。私は新開地へいっていつもブラブラしていました。荒巻さ
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