てくるのを待っているのがいつもの例であったに相違あるまい」
ヤスは涙ぐんで、うつむいた。
「もういっぺん、昨日のことを語ってごらん」
「仰有る通りでございます。お待ちしておりましたが、約束の時間がとっくに過ぎても戻って見えません。悪いとは存じながら、いつもタンマリお駄賃を下さるので、奥さんのイイツケに背くことができませんでした」
「二人はどこでアイビキしていたね」
「私はお師匠さんの家に置いて行かれて、どこへいらッしゃるのやら、存じません」
これでヒサと敏司がアイビキをつづけていたことがハッキリした。
そこで多くの探偵をだして、荒巻敏司、中橋英太郎、小山田新作、梅沢夢之助らの数日来の動静をさぐらせてみると、判明してくる事実は、実に意外、又意外の連続である。
その一。中橋英太郎は十一月晦日以来行方不明。夢之助の妾宅に姿を現していないのみならず、本宅にも音沙汰がない。本宅ではヒサの妾宅にいるものとして意に介していなかった。
その二。荒巻敏司は十一月二十九日午後四時四十五分新橋発神戸行の直通にのって故郷四国へ赴く筈であったが、その翌日も、翌々日も東京に居た。彼が東京を去ることになっ
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