て狂いを生じる男ではない。彼はむろん別天王と通じているぜ。彼はゾッコン惚れているのさ。だから妙心が別の美女を快天王に仕立てて別天王を蹴落すのを見ていることができない。不具の子、不肖の子ほど可愛いと云うが、別天王もセムシでブ男の千列万郎がひとしお哀れであったろうさ。又その悲恋のむごたらしさに堪えがたかったであろうよ。世良田はそれが見るに忍びなかったのだ。いかな丈夫といえども環境によってとるべき手段に狂いを生じるのは、人間のさけがたいところだ。邪教という環境に住みなれて、世良田ほどの男も別天王を救うに人を殺す暗愚な手段を用いてしまったが、恋に盲いると、頭の冴えの非凡なるものも一朝にして曇るのが人間の常でもあるのさ。さすがに世良田は利口者だから、この三名から肝をぬいて、いかにもそこいらの業病人が生き肝をぬいたように見せかけたが、ノド笛なんぞ噛みきらなきゃアよかったものを、しかし、ここがカンジンだアな。これには深い曰くがあるぜ。即ち彼が人を殺したのは別天王を救うため、又、悪者をこらしめるためだ。彼にとっては、別天王を苦しめる者は悪者さね。そこで別天王の懲しめによって悪者は狼にノド笛をかみきられ
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