ざめ、死刑の絶望のために半ば気を失いながら、脂汗をしたたらせて、よろめいて、いざりでてきた。見ると先の密偵、牛沼雷象である。これを見てガタガタふるえだしたのは泉山虎之介。必死にふるえを止めようとするが、止まらない。
 にわかに子供の声はおびえたって、
「こわいよう。ごめんよう。目をくりぬいちゃイヤ。舌をぬいちゃイヤ。焼火バシを目にさしこむのごめんよう。ア、ア、ア」
 なんという怖しい子供の断末魔の悲鳴であろう。地獄の責苦をうけているのであろうか。きく者はゾッと身の毛がよだつものすごさ。雷象がアッと気を失いかけると、
「ウォ、ウォッ」ととびかかる狼の声。ギャギャッとたまぎる雷象の悲鳴。大ロウソクの光がパッと消えてしまった。ミコが立ってサッと消してしまったのである。
 すべては闇の底に沈んだが、雷象の息絶え絶えの苦悶によって、目に見るよりもむごたらしい死の情景がありありと分った。雷象は血の海の中をころがりまわっていた。彼のノドはすでに食いとられ、今や腹を存分に食い荒されているのである。かすかな悲鳴を一つのこして雷象の息は絶えた。
 光がついた。雷象は死んでいた。どこにも傷もなかったが、まさ
前へ 次へ
全48ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング