けを読者にお伝えしておこう。

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 天王会には「カケコミ」という行事がある。これをすまさないと信徒の列に加えてもらえない大切なもので、いったん教会へ通いだしてからカケコミをあげるまでの期間は素人(ソジン)と称して信徒と区別されている。
 つまりカケコミとは、わが家から教会へカケコムことではなく、精神的に神のフトコロへカケコムことの意であるが、そうと分るのは信仰をはじめてからのことで、一般の人々はわが家からカケコムせいだと考えている。これをいかにもそう思わせるような唄があった。ソジンがカケコンで信徒になるには荘厳な儀式を行う。そのときの唄が、
 せつないときは かけこみ かけこみ パッとひらいて 天の花
 この合唱には月琴、横笛、太鼓、三味線、拍子木、これにハープとヴァイオリンとクラヴサン(ピアノの前身のようなもの)が加わっている。これだけの楽器は儀式の表面へ現れて演奏されるが、この合奏の中絶した時にも常に妙なる好音が小川のせせらぎの如く野辺の虹の如く星ふる夜の物思いの如く甘美に哀切に流れていて、これは物蔭にあるオルゴールの発する音だという。
 さてカケコミの唄と
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