おしのも怪しんだ。
 離れのお槙を起してみようかと思ったが、お槙は昨夜泥酔してねむったことを知っているので、藤兵衛の甥の芳男のところへ行った。ところが、芳男の部屋にはフトンがしいてあって、ねたあとがあり、何か荷造りをしかけたものが置き残してあるが、部屋の主はモヌケのカラで、外泊の様子。仕方がないから、番頭の修作を叩き起して、この旨をつげた。そこで修作がネボケ眼をこすりながら、土蔵へ行ってみると、注進の通りで、戸を叩いても、呼んでも返事がない。フシギであるから、お槙をよび起して、戸を押し破ってはいってみると、藤兵衛は脇差で胸板を刺しぬかれて死んでいたのである。
 戸が内側からカギがかかっていた。その密室で人が殺されているから、この謎は難物である。そこで新十郎をよびむかえることになった。
 新十郎は例によって花廼屋《はなのや》因果と泉山虎之介の三人づれ。古田鹿蔵巡査の案内で、人形町へやってきた。
 藤兵衛の傷は背後から背中を一刺しにしたものだ。ちょうど肝臓のあたりを刺しぬいて、切先が三四寸も突きぬけている。死体は脇差を刺しこまれたまま、こときれていた。脇差は藤兵衛の座右の品。この川木屋で刀
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