いる。
そのほかに、お民、おしの、という大そう不別嬪の女中が下働きをしている。以上が川木の全家族であった。
土蔵の中の藤兵衛は、毎朝七時に熱いお茶をのむ習慣があって、おしのがヤカンの熱湯と梅干を土蔵の中へとどけることになっていた。
この日も、いつものようにヤカンを持って土蔵の二階へ上ってみると、昨夜十二時に部屋の外へおいてきた夜食が、そのままになっているのである。藤兵衛は食事は離れへでてきてお槙と食べるのであるが、夜食だけは、土蔵の中で、毎晩十二時にお握りを食べる。昨夜もおしのがお握りを持って行くと、部屋の板戸にカギがかかっているらしく、あかないのである。めったにそんなことはないけれども、もうお寝《やす》みかと、部屋の外へお握りの皿をおいてきたのである。ところが、それがそのままになっている。
藤兵衛は、夜はおそいが、朝は早い。六時半ごろ起きて、チャンと手洗をすましている。ヒルネをする習慣があるから、これで睡眠は充分なのである。朝の七時にヤカンを持って行くと、必ず起きている藤兵衛が、前夜からズッと眠り通して起きてこない。戸には内側からカギがかかっているし、呼んでも返事がないから、
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