。これを一時期にして、彼は土蔵の二階に居間をつくって、金庫と帳簿を抱えて住みつくことになり、店を番頭にまかせたが、彼には、彼のあみだした方針があった。
近所の横山町には小間物店の老舗がそろっている。シッカと年来の顧客をにぎって、微動もしない屋台骨を誇っている。新規開店の川木では、そうおさまってはいられない。彼自身も足を棒にして顧客を開拓したが、今後もそれを怠るわけにいかない。
小間物屋の顧客は主として花柳界、つづいてお邸や大商店の奥様お嬢様などであるから、そこへ出入りする番頭は、男ッぷりがよくて愛想がよくて、御婦人方の気に入られる男でなければならない。ところが、男がよくて愛想がよいから、もてる。あげくに手に手をとって、というのはまだ良い方で、お出入り先のたくさんの御婦人連とネンゴロになりすぎて、事を起し、店の信用を落してしまうというのが、少くない。
そこで藤兵衛は考えて、お得意まわりに一人前の番頭をやるからいけない。これは小僧をやるに限る、こう結論して、利発で、愛嬌があって、愛想もよくて、顔の可愛い子供を十一二から仕込んで、十五六になると、そろそろお得意まわりにだす。これが非常に
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