みると、障子が薄目にあいているものですから、ボンボリをかざしてごらんになったそうです。すると中がモヌケのカラですから、さてはとお思いになりましてな。ボンボリをけして、そッと二階へ忍んでみると、芳男さんの部屋の中からまごう方なく二人のムツゴトをきいてしまったと申されました。お前が帰ってから、二人をよんで、お槙には三行り半を、芳男にも叔父甥の縁をきって、今夜かぎり追ンだしてしまうのだと申しておられました。そして私がお暇《いとま》を告げますときに、それではついでにおしのに云いつけて、お槙と芳男二人そろって土蔵へくるように伝えておくれと、おッしゃいました。その云いつけをおしのに伝えて、私は家へ戻りましてございます」
「まッすぐ家へ帰ったのだね」
「いいえ。実は、はからずも帰参がかないまして、あまりのうれしさに、縁日のことでもありますし、水天宮さまへ参拝いたし、ちょッと一パイのんで、久しぶりの酒ですから、大そう酩酊して、夜半に家へ戻りましてございます」
「酒をのんだ店は、どこだね」
「それが、貧乏ぐらしのことで、持ち合せが乏しいものですから、見世物の裏手の方にでている露店の一パイ屋でカン酒を傾け
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