だけの不正を働くようでは、とてもまッとうな番頭に返れるものではない。そこで、芳男も修作もおン出そうと思うから、明日の正午に店へ来てくれるように。朝のうちに追ンだす者を追ンだして、お前を番頭にむかえるからというお話でした。それで、正午に当家へ参上のつもりで支度いたしておりますと、迎えの方が見えられたわけでございます」
「なるほど。旦那が死んでは、せっかくお前が帰参のかなうところをフイになってしまって、大そう困るわけだ。ほかに話はなかったかえ」
「ハイ。実は、オカミサンと芳男の仲が世間で噂になっているが、お前はどう思うか。お前のいたころから、気のついたことはなかったか、というお尋ねがありました」
「それは大そうな質問だね」
「ハイ。それで私も困却いたしまして、そのような噂のあることはきいたことがありましたが、自分の目で見て気のついた特別なことは一ツもございません、と申上げますと、旦那は淋しい笑いをうかべなすって、実は、オレは自分の目でチャンと見届けているのだよ、とおッしゃいました」
「自分の目でチャンと見届けていると」
「左様です。深夜に便所へ立ったついでに、ふとオカミサンの部屋の前へきて
前へ
次へ
全51ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング